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 早稲田教員養成・教育推進協議会は、教員養成や現職研修の全般的な問題について協議するだけでなく、本GPの点検・評価を行う組織として設けられた。教員養成GPは資質の高い教員を養成するための教育内容・方法の開発・充実等を行うものであるが、具体的な実践を伴うこと、教員の採用側の意向を十分に踏まえた取組であること、学校現場を重視した取組であることを求められている。本GPを推進していくに当たり、教育委員会や学校現場との連携・協力が不可欠である。そこで、新宿区・杉並区・墨田区の各教育委員会、川崎市総合教育センター、都立青鳥養護学校、都立中野養護学校、渋谷教育学園渋谷中学高等学校、早稲田実業学校初等部 ・中等部・高等部、早稲田中学・高等学校、早稲田大学高等学院、早稲田大学本庄高等学院の代表に協議会のメンバーとして加わっていただいた。

 また、点検評価のために、8名から構成される点検・評価部会を設けた。

 なお、2006年度に「言葉の力を創生する教員養成プログラム」(「ことばの力GP」)が採択されたことにより、協議会についても2006年度の後半は二つのGPを統合した組織として再編成した。

総括 −あらためて「よい教員養成」をめざして−

早稲田大学教員養成GP実行委員会委員長
早稲田大学教育・総合科学学術院教授
坂爪 一幸
 教育は生徒と保護者そして教師との三者による共同作業が基本である。そして共同作業の場が学校でありまた家庭でもある。この三者の関係が安定していないとき、教育は危うくなる。三者間の関係が安定するためには、三者それぞれの「役割」が明確でなければならない。「役割」のないところに関係は生まれない。今日、教育を取り巻く状況は、この三者の「役割」と関係とその場とを大きく変化させている。生徒は発達状態や学力が多様化・複雑化(軽度発達障害の増加や学力格差の増大など)している。保護者はかつてに比べて高学歴化し、教育への考え方や親子関係や家庭内教育(しつけ)も多様化している。情報社会の進展は知識の入手を容易にし、また塾に代表される教育環境の多様化は、教育機関としての学校の社会的な位置づけを変化させてきている。このようなさまざまな変化が急速に進む中で、教師は従来型の教職課程(免許制度)による養成にとどまっており、相対的に教師としての専門的な「役割」が低下している。このように三者の「役割」の変化は三者関係の安定を崩し、共同作業としての教育が従来以上に困難になっている。学校が学校としての「役割」を、また教師が教師としての「役割」を明確にして、教育という共同作業を確実に実施していくためには、教師としての「専門性」の向上が基本であり、また不可欠な条件でもある。
 早稲田大学「教育臨床を重視した教員養成強化プログラム」は教師の「専門性」、特に今日要求される教育的「臨床能力」を高めることを目的にした。具体的には、生徒の発達的な問題や学力の向上や学びの意味を生徒個人に応じて描ける能力、保護者に教育行程を説明し証拠に基づいた教育を実践できる能力、そして学級を適切に運営できる能力などが教師としての「臨床能力」である。本プログラムの基本設計に際しては、“教師の養成は医師養成の教育プログラムと同等程度以上であるべき”ことを理念とした。インテンシブコースの人間理解基盤科目は基礎医学、学習指導基盤科目は臨床医学、インターンシップは学外病院での臨床実習、そして教育総合クリニックは付属病院に相当する。これらを現職の教師にも広げるために現職研修を開催して知識やスキル・アップの機会を提供した。さらに、早稲田教員養成・教育推進協議会の設置はこれらを適切に運営し、また教育現場と大学との連携体制を確固と築くことを目的にしたものであった。
 教育的「臨床能力」を身につけ高める方法は本来二つしかない。現場で数多くの生徒や保護者に出会い自ら学んでいくか、または徹底的に臨床教育を受けるかのどちらかしかない。教員養成は後者に相当する。しかし、現在の教員免許取得の教職科目と教育実習の履修だけではこれは困難である。例をあげれば、「臨床能力」の基盤に関する知識の教育がない。教育の主体者である人間を理解する視点を提供する基礎科目の教育が欠如している。さらに、「臨床能力」の高い教員養成に不可欠な教育実習は質・量共に決定的に不足している。医師養成では医療水準の高い病院での実習が必要である。技量が未熟な医師を救急病院や野戦病院には派遣しない。患者の命を奪う危険性だけでなく、医師をめざす学生を指導する余裕もなく、場合によっては医師志望の学生が本来の志を喪失してしまう。教育実習やインターンシップでは、ともすれば学生の力を借りるという発想が前面に出る場合がある。学校や教師自身が手に負えない生徒を学生に預ける場合も少なくない。本末転倒である。最高の教育を実践している学校や教師の下で学ぶのが本来の実習の姿である。教育困難校での実習や教育困難な生徒への対応はその次の段階であろう。よいものを知り、それを基準にしなければ、“良貨は悪貨に駆逐されてしまう”。どの領域でもこれは同じである。理想的な教育科目や教育実習やインターンシップの体制を構築するには、なお一層教育現場との相互理解に基づく連携が必要である。このように2年間という限られたプログラムの実施期間で理念を実現するにはあまりに制約が大きかったが、早稲田大学のめざす理想的な教員養成の基本的な設計図を描き、土壌を耕し、種は蒔けたものと思う。どのように早く種を芽生えさせ、しっかりと根づかせ、大きく成長させることができるか、今後のわれわれの大きな課題であり大学としての責務である。
 最後に、医師の養成プログラムを理念とはしたが、医師養成と教員養成には決定的に異なる部分があることを指摘しておきたい。医師は病気を治せばそれですむともいえるが、教師は生徒にとってあくまでも「師」である責務と義務を負い続けなければならない職業である。生徒は日々あらゆる角度から教師をみており、考え方や振る舞い方などを学んでいる。また教育は試行錯誤の連続した過程であり、基本的に完成はない。これらの点で、医師以上に広い知識と深い人間性と耐えざる自己研磨が要求される。真の教養が根本的に必要である。幅広い教養を基盤にしてこそ、目の前の生徒になすべき教育を批判的に正しく位置づけられる。このため、絶えざる自己研鑽(研修)が必要である。幸いにも、教員養成を担っている早稲田大学教育学部(教育・総合科学学術院)には、総合大学に匹敵する文系から理系までの幅広い教育基盤が整っている。教師に必要な教養と研鑽に貢献できる基盤がある。他大学にはないこのような利点と特徴を今後の教員養成や現職研修にさらに生かしていくことが大切である。ともすれば研究者は自分の専門領域の研究に専心するあまり、教育を二の次に考えがちである。しかし、あらゆる学問や科学は人類の知識を拡大するために存在する。そこには必然的に次世代への知識伝達の義務が含まれる。学問や科学研究の最先端に位置する大学には知識伝達の責務がある。そして次世代への知識伝達の最前線に立つ教師の養成は、大学の義務であり責務である。早稲田大学ならびに関係各位がこのような義務と責務を確固と認識し自覚して、今後の教員養成に大きく貢献されることを祈念して総括としたい。

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